エンジニア の 独り言

部屋の特性 Vs スピーカーの特性

オーディオ・マニアの方々には、カタログ・データを重視して製品選びをしている
方や、あくまで試聴を重視されて購入を決めている方や、ブランドを最優先して後は
値段とオーディオ雑誌の記事を参考にして店に注文するという方がいらっしゃると
思いますが、どのアプローチも、それぞれの危うさを秘めています。

カタログ・データを重視されている方の場合、そのデータが音質を保証するものでは
ないと言うことを理解されずに、生気のない音を聞き続けているケースが多いようです。

オーディオ専門店の試聴室などへ出かけ、実際に聞いてからでない買わないという
方は、ある程度、耳に自信のある方に多いようですが、このCD(レコード)の、あの
シンバルの音がハッキリ聞こえたとか、低音が豊かでホールトーンが味わえたとか、
一聴すると良さそうに聞こえる製品を衝動買いしてしまいがちです。



このデータは、あるオーディオ・マニアの方のお宅へお邪魔して測定したJBLのスタジオ
モニター4344の周波数特性ですが、部屋の影響を極力受けないようにスピーカーに
近づいて測定したのにもかかわらず、かなりの周波数偏差が残っています。しかも、この
特性はミッド・ウーファー/ホーン/ツィーターのアッテネータのレベルを全て0dBの処に
合わせて測定した物です。




上の周波数特性は、ミッド・ウーファー/ホーン/ツィーターのアッテネータを最良に
なるように調整したものです。




オーディオ・マニアの方はインピーダンス特性にはあまり興味がないようですが、設計の側
からはインピーダンスが重要な意味合いを持ってきます。上記のインピーダンス特性では
バスレフの反共振周波数30Hz付近のインピーダンスが100Hz付近と比較して高すぎます
ので、低音のダンピングが悪いということが、測定値からも見て取れます。正常なバスレフ
動作をしている場合は、この反共振周波数とウーファーの最低インピーダンスはほぼ一致
します。



こちらは3ウェイの4333のインピーダンス特性ですが、4344とは音づくりが全く異なるよう
です。バスレフの反共振周波数40Hz付近になっており、ローエンドはあまり伸びていませ
んが、よりバスレフらしい特性になっています。それでも反共振周波数とウーファーの最低
インピーダンスは一致していませんので、動作的には問題が残っているようです。
周波数特性もそれを裏付けるような特性でしたが、ちょっとひどすぎましたので、ここで掲載
することは遠慮させていただきます。

カタログ・データはあくまで無響室での測定が基準ですから、残響のある一般の部屋では
メーカーが発表している特性と同じというわけにはいきません。しかも、ユニットによる
バラツキも結構ありますので、カタログ・データを信用してしまうというのはある意味、恐ろ
しい事でもあります。

オーディオ・マニアの中にはスピーカー・ケーブルに何十万円も使ったり、アンプなどに
何百万円も使ったりしている方がいらっしゃいますが、それによる音の変化は音の入り口
=マイクと出口=スピーカーによる変化と比べますと、微々たるものですし、まず部屋の
音響を含めて特性をチェックし、少なくとも周波数偏差は10dB以内に抑えられるように
したほうが得策でしょう。アッテネータのレベルを2dB調整する方がスピーカー・ケーブル
を交換するより、変化が大きいという事は想像に難くないと思います。

良く、43434344を改造したいというご相談を受けますが、完成品を改造するのは新品
を購入するより高く付き、なおかつ、性能的にも満足がいくものではありませんので、その
製品が気に入らないのであれば、まだ欲しい人がいる中に処分して別のシステムに買い
換えた方が良いと思います。
ちなみに、このシステムの音色を決定づけているのは音響レンズ付きショートホーンと25
cmのミッドウーファーですので、38cmウーファーやダイアフラムをRADIANの製品と交換し
ても、それほど劇的な改善は見込めません。別のホーンをエンクロージャーの上に置き、
残りのユニットはそのまま使いたいという方もいらっしゃいましたが、ネットワークをまた新しく
設計し直さなければ、まともな音にはなりませんし、25cmミッド・ウーファーのキャラクター
はそのままですので、全くお薦めできません。

一番安上がりな方法は、RADIANの20cmか30cmの同軸型スピーカーシステムを4344
の上に載せ、あたかも4344が鳴っているかのように見せかけることです。冗談のようですが
新しく買い換えると奥さんがうるさいので、RADIANの20cm同軸型スピーカー・システムを
こっそり買って4344の上に置き楽しんでいらっしゃる方がおりますが、聴きに来るお客さん達
が「やはり大型システムはスケールが大きい音がする」と宣ってくれたりするそうです。
ちなみに、4344のターミナルには4オームほどのセメント抵抗を接続し、4344を一種の
吸音体としてお使いいただいていますので、4344自体は完全に用無しではありません。
このようにしますと、部屋の低音域の特性をコントロールできますので、完全にショートしたり、
接続する抵抗値を変化させて、試してみてください。

KOZY STUDIO では¥25,000+交通費で測定サービスをしておりますが、お使いの
システムに問題がある場合は、原因が追及できますので、改造に余分な費用をかけないで
済む分、安上がりになると思います。

リスニング・ルームやプライベート・スタジオの設計・施工へのアドバイスにも応じております
ので、新築・増築・改築の際は、ご連絡下さい。オーディオ用の部屋の建築をしたことが
ない施工業者との交渉もいたしておりますので、音響専門業者と契約するよりは安くつくと
思います。