エンジニア の 独り言

スピーカー・ケーブルについて

PAの業界に限らず、一般のオーディオマニアの方々にも、スピーカー・ケーブルは太ければ太いほど直流抵抗が低くなり、音質が良くなると信じ込まれているケースが多いように見受けられます。
確かに理論的にはケーブルが長くなればなるほど直流抵抗が高くなるわけですが、音質を決定するのは直流抵抗値だけでは無いという事を、全く考慮されていないようです。
ケーブルの直流抵抗値が影響するのはダンピング・ファクターですが、パワーアンプのダンピング・ファクターが高ければ高いほど良いなどという説は一般的に認められていないことからもお分かりのとおり、直流抵抗値が低ければ低いほど良いと思いこんでしまうのもおかしな話です。
理論的には真っ直ぐなケーブルでもコイルのようにL成分が存在するため、抵抗値も高い周波数になるにつれて上昇しますが、それが測定できるのは数百kHz以上の場合ですので、パルス応答を計算に入れても影響はごく少ないようです。
しかし、音声信号が流れる際、高い周波数になるほど導線の表面付近に電流が偏って流れるという表皮効果が現れてくるため、数十kHzの帯域でも抵抗値が上昇することが測定結果からも確認されています。
この表皮効果が顕著になるのは、ケーブルの導線の直径が1.6mm以上の場合で、太いケーブルほど低音域に比べて高音域の抵抗が大きくなる割合が増加してしまい、一種のハイカットフィルターになってしまうわけです。極太のケーブルの方が音がぼけて聞こえる傾向があるというのも、この現象で説明がつくように思われます。
過去には表皮効果のことだけを考え、シールド線のように同心円上に導線を並べ、表皮に相当する部分にだけ電流が流れるようにしたケーブルも存在しましたが、実測しても表皮効果に対する改善が現れていないばかりか、導線の縒りが緩くなってしまった結果、導線が信号によって振動してしまうのか、単なる電源用ケーブルよりぼけた音質になってしまっていました。
色々と仮説を立てることは自由ですが、実証を伴わない理論ははなはだ危険です。
100mで1Ωも無いケーブルをほんの数m使うために極太の導線を使っても、バインディング・ポストとケーブルの接触抵抗の方が大きいのが実情なのですから、音質を客観的に原音と比較しながらチェックして、より原音に近いケーブルを選び、それらの電気特性などを調べ、どの特性が音質に大きな影響を与えるかを検証する必要があります。
接触抵抗についてはテスターを使えば簡単に検証できますので、確認していただいた方が良いと思います。
1mのケーブルと5mのケーブルを計って抵抗値に5倍の差が出るかを確認していただければ、ケーブルの長さより圧着の強さによって、驚くほど抵抗値が変化してしまうことがお分かりいただけると思います。
たとえ1Ωの抵抗があってもそれによるパワーロスは-1dBもないのですから、太さにこだわるのは得策ではないと思われます。
相対的に二つの音のバランスが1dB違うのは判っても、絶対的な音圧で1dBの差を関知するのはまず不可能ですし、スタジオですら50Hzから15kHzまで±2dBに収めることはかなり難しいというのが現状ですので、更に条件の悪いシステムや部屋で聞いていらっしゃる方々が1dB未満の差を気にするというのも奇妙な話です。
実際、2muのケーブルでも、10mで抵抗値は0.1Ω未満ですので、パワーロスは測定不能です。

また測定によって検証することは難しいのですが、導線や絶縁体やシースの材質によって音質に差が出るのも事実ですので、最適なケーブルを原音との比較でチェックされてみてはいかがでしょうか。