サウンド&レコーディング・マガジン
1988年3月号

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これはマイケルがステージを揺さぶるような超低音を要求したためで、最初はS−4と同じ
サイズのキャビネットに46cmウーファーが2発入っているサブ・ウーファーが16台、80Hz
以下で使用された。しかし非常に過酷な使用のためパワーアンプもスピーカーも途中でNG。パワー・
アンプは改良が加えられたが、サブ・ウーファーは振幅が限界を超えてしまっているので
改良は不可能だった。そこでこれまでとは全く異なったコンセプトによるSDL−5が採用
されることになった。このSDL−5は先月号で詳しくお伝えしたように、DCサーボ・モーター
を使用しているため、ピークで1,000Wを越える入力にも難なく耐え、超低音域を効果的に
補強することが可能になったわけだ。

ミキシング・コンソールはクレア・ブラザーズのカスタム・メイドで32chイン、6バス、ステレオ・
アウトの他にモノラル・アウト付きといった仕様。各入力にはパッド、ゲイン・トリムに続いて
3ポイントのフル・パラメトリック・イコライザーが装備されていて、4系統のAUX、チャンネル・
アサインのロータリー・スイッチ、フェーダーと続き、P&Gのフェーダーは本番中に不用意に
動かないようにわざと重たくしてある。フェーダー横のプラズマ・メーターはスイッチにより
アベレージとピークのレベル表示ができ、同時に表示させた時はピークが少し暗くなり、
一目で両方を読みとることができる。今回使用された2台のミキシング・コンソールはNo.7と
No.8で1976年製とのことだが、どのコンソールも最新の物と同じ性能になるように改良が
加えられているそうだ。なお出力後の信号の流れは図5のとおり。

さて、ステージ・モニターに目を移そう。卓はハリソンのSM−5という32chイン/32chアウト
のモニター・コンソールとヤマハのPM3000-40を使用。スピーカーは、サイドフィルとして
S−4が上手と下手に2台ずつフライングされている。フロントには4台のS−4と同じサイズ
のサブ・ウーファーが超低音を補うために使用されているが、これはマイケルがステージ上
でも体を揺さぶるような超低音を要求したためで、普通なら超低音がステージまで回り込ん
でくるが、SDL−5では回り込みが少ないので、敢えて以前使用していたサブ・ウーファー
を使用したそうだ。また、サブ・ウーファーの上にはハイ・ボックスが置かれているが、これも
メイン・スピーカーから回り込んでくる音に高音域が欠けているので、それを補うために使用
されている。このようにすることで、ステージ上のどの位置でも明瞭度の高い音がモニター
できるわけだ。

Kevin Elson

ケヴィン・エルソンは16年のキャリアを持つベテランPAエンジニア。会社側に制約されず
常にミュージシャン側の立場にいたいということで、PA会社には属さずにミュージシャンから
の要請で仕事をしているが、これまでにレイナード・スキナード、ヴァン・モリソン、ジャーニー
などのコンサート・ツアーを手掛け、今回のマイケルのツアーでは1年半に渡りチーフ・エン
ジニアを務めている。コンサートのミキシングに対して彼は、エキサイティングな点では他の
何物にも代えられない何かがある、と語っている。

  • クレアのサウンド・システムに付いての感想は?
エルソン ベストです。非常に使いやすくできていますし、音質もとてもクリーンです。
  • スティングの時もそうでしたが、この東京ドームでこれほどクリアなサウンドが得られるというの
  • には、システムの良さもあると思いますが、操作面で何か特別なノウハウのようなものがある
  • のでは?
エルソン ノウハウと言えるかどうかわかりませんが、このような場所ではある音圧以上になると
音が回ってしまい明瞭度が損なわれますから、ある音圧以上にはしないということが重要だと
思います。スティングにしてもマイケルにしてもそれほど大音量を必要とする音楽ではないせい
もありますが。
  • それでもかなりの音圧ですが、音がクリアなのでうるさく感じないのですね。
エルソン それにはクレアのシステムの優秀さも大いに関係していると思います。よく、
ウーファーにホーン・ロードをかけたシステムを見かけますが、私にはとてもピーキーに聞こえます。