サウンド&レコーディング・マガジン
1988年3月号

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エルソン それにはクレアのシステムの優秀さも大いに関係していると思います。
よく、ウーファーにホーン・ロードをかけたシステムを見かけますが、私にはとてもピーキーに
聞こえます。その点、クレアのシステムではダイレクト・ラジエーター型になっているので音が
非常にスムーズですし、エレクトリック・クロスオーバー(チャンネル・ディバイダー)に特殊な
プロセシング・システムが内蔵されているので、低音域や中音域がタイトです。
クレアのエンジニアに言わせると、高音域のホーンも音がスムーズなので外部のエンジニア
には物足りないところがあるらしいとのことですが、私には他のシステムがうるさいだけなのだ
と思えるのです。
  • 理論的にもウーファーにホーン・ロードをかけたりすると位相歪みが起きるので、クレアの
  • システムの方が正解だと思います。
エルソン ヘヴィ・メタルばかり聴いている人には向かないかもしれませんね。
  • ミキシングの時に主に聴いている音はありますか?
エルソン 各パートの音を聴いていますが全部を聴いているわけでもないですね。低音を
まずドーンと出してそれから音を積み上げていく人もいますが、そうすると各パートがドロドロ
になってしまいますから、私の場合はできるだけクリーンでタイトにして各楽器の音の明瞭度
を上げるようにしています。
  • ヴォーカルのミキシング・バランスは?
エルソン 極力レコードやCDに録音されているようなバランスにしていますが、マイケルは
歌っている時でも激しい踊りをよくするので、マイクがどうしても口元から離れてしまい、同じ
バランスにするのが難しい時があります。彼の悪い癖なのですが、マイクを口の横にもって来
たりマイク・カプセルの真ん中に親指をのせたりして、ひどい時はハウリングが起きますから
大変ですよ。
  • 本番中ミキシングは一人でやるそうですが、スタジオ録音の経験のある貴方にとって、
  • 64チャンネルを一人でリアルタイムに操作するのは大変じゃないですか?
エルソン それほどでもないですよ。まず全てのリズム・セクションをまとめてから、ベース、
エフェクト関係とミキシングしていきますが、それは左側にあるコンソールでやります。正面の
コンソールではヴォーカル、キーボード、ギターをミキシングしていて、本番中に操作する
必要があるフェーダー等は正面に集中しているので、楽と言えば楽です。
  • リアルタイム・アナライザー(dbx RTA−1)はどのように使用しているのですか?
エルソン ピンク・ノイズで会場の音響特性を測定してイコライジングの目安にしたり、ミキシ
ング・コンソールの出力とエフェクター・ラックの上のマイクで拾った実際の音を比較するとか、
コンソールのキュー/センドを利用してステージ上のマイクをひとつひとつチェックするとか、
使い道はいろいろあります。以前はクラーク・テクニックやクラウン(アムクロン)のスペクトラム・
アナライザーを使っていましたが、dbxのは外部のカラー・モニターが使用でき、見やすい
位置にディスプレイを動かせますから非常に便利です。しかもこれにはメモリーが内蔵されて
いて、どこそこの会場ではこういう特性だったとか、このマイクにはこの曲でこういう音が入って
来たというデータがすぐ呼び出せるので、何か音が違うと感じた時にその原因をすぐ把握する
ことができます。
  • サブウーファーの使用頻度は?
エルソン ほとんどの曲で使っていますが、フルパワーで長く使用するのは5、6回ですね。
あとはキックやベースにもっとパンチ力を付け加えたい時に使ったり、会場に観客が入って
低音域が不足していると感じた時に、微妙に付け加えています。
エルソン SDL−5は、マイケルが要求してくれたように本当にステージや客席をシェイク
してくれるし、サウンド・エフェクトとしても効果的だと思います。とにかく、サブ・ウーファーの
耐入力を気にせずに、思ったままのサウンドにすることができるので、ミキシングがとても楽に
なりました。
  • なぜ入れっぱなしにしないのですか?
エルソン とかくライブではどの曲も同じようなサウンドになりがちですが、SDL−5を入れたり
切ったりすることでサウンドにコントラストを付けられるからで、レコードやCDでは味わえない
効果が得られます。