MJ 無線と実験
1993年11月号

タイのミュージックシーン
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タイのレコーディングスタジオ

以前からアジアの音楽に魅せられ、いつの日にかアジアのミュージック
シーンの現場へ行ってみたいと思っていたが、ひょんなことからかなう
ことになり、喜び勇んで Pro Audio & Light Asia の開かれていたシンガ
ポールを後にし、タイへと向かった。目的地はタイの誇るバンド「カラバオ」
が使っていたセンター・ステージ・レコーディング・スタジオである。

スタジオ・マネージャーのジョム氏と午前10時にアポイントメントを取り付け
昼頃にはホテルを出ると伝えたが、ガイド兼ドライバーのオー嬢が待てど
暮らせどやってこない。
午後2時頃やっと電話が来て少し遅れるとのこと。
結局彼女が来たのは6時30分頃でスタジオへ着いたのは夜の8時を回って
いた。何事にかけても「マイ・ペン・ライ」(気にしないで)の国なのである。
スタジオのスタッフの人達も私の到着が遅れたことなどまったく気にしていな
いようすだった。

スタジオのフロントでは元カラバオのメンバーであるキーォ(KEO)氏が娘さん
と一緒にくつろいでいた。
私は一瞬「この人を知っている」と感じて、自己紹介もそこそこにまるで久しく
会っていない友人と再会した時のように握手してしまった。彼はにこやかな
笑みを浮かべながら、一枚の手紙を私に見せてくれた。
それは「タイのキタローへ」と日本の喜多郎から出された年賀状だった。
彼は本当に喜多郎そっくりで、本人とも何回か会っているとのことであった。
私の取材活動はこのようにして始まった。

私が取材したのはスタジオ2で、レコーディング・スタジオの広さは約80u、
モニタールームの広さは約55uとごく一般的な規模であった。モニター
ルームの正面の壁はデッドエンドにしてあり、定位を重視した設計になって
いた。従って、ミキシング・コンソールの裏に低音が溜まるような問題はなかっ
た。また背面の壁はライブエンドになっており、耳障りな反射を防ぐために
特別製のディフーザーが埋め込まれていた。このディフーザーの効果は
定かではないが、日本でよく見かける正面をライブにした低音がもたつき気味
のスタジオよりは、音がよく見えるような気がしたのは確かである。ちなみに
天井の高さは4.5mで天井裏は1mとのことである。

このスタジオにいる限りタイにいるという感じはしないのだが、なぜか時間が
ゆっくりと流れていくようで、非常にくつろいでいる自分を発見し、妙な気分に
なった。初めて会った人達だというのに何か懐かしい感じがするのはタイと
いう国の持つまりょくなのだろうか。

マスターテープはDAT

CDを作る場合はDATでマスターテープを作り、マスタリングやプレスは外国
へ依頼するとのことである。ディック・リーも同じ方法でCDを作っていると聞い
ているし、初めからデジタルで録音する場合は外国のスタジオを使っている
そうなので、アジアのミュージック・シーンではどこも同じような状況のようだ。

機材は一覧表の他にもMidi用にはデジタルミュージックのMX-8、シンセサイ
ザー系にはプロテウス、E-muシステム、コンピュータはMacでソフトはパー
フォーマーといった具合で世界中の一般的なスタジオにとって標準品と
いった機材群であった。当然その使い方も機材の特徴を活かした、