数十年前から、不思議に思っていることに、ショートホーン+バスレフの エンクロージャーがあります。 特にPAの業者の方でALTECのA7やJBLの4560などの箱を未だに使用 しているという話を耳にする度、もったいないとさえ思ってしまいます。 更に不思議なのが、自分達でスピーカー・ユニットを製造せず、RADIAN やJBLなどのユニットをOEM供給してもらいながらウーファーをショートホーン 型のエンクロージャーに収めたスピーカーシステムを製造しているメーカー の存在です。 |
ショートホーン+バスレフ・キャビネットはホーンの形をした障害物によって 指向性が付くことにより250Hz付近が持ち上がり、障害物の影響が出なく なり指向性が無くなる100Hz以下で平坦な部分が少し出てくるものの、 50Hz以下はそれ自体がローカット・フィルターであるホーンの影響を受け、 更にバスレフの反共振周波数が一般的なバスレフの設計より高めということ から、二重にローカットされるため落ち込みが激しく、平坦な周波数特性は 望めません。 上の特性表は、あくまでメーカー発表の周波数特性のキャラクターを示して いるものであり、実際に測定しますと、下の特性表のようにかなり偏差がある ようです。 現在、まともなスピーカーユニットを製造しているメーカーでは、ホーン型の エンクロージャーを一切採用していないことからも判るように、現時点の技術 では、最も高品位で最も高い音圧を再生することができるのは、バスレフ型の エンクロージャーに入ったウーファーです。そして、ほとんどのメーカーは バスレフでの使用を前提にウーファーを設計しています。 |
また、W型の折曲式ホーンの場合、更に複雑な特性になり、上の特性表の 赤線に見られるように、特定の周波数で凄まじいディップが発生してしまい ます。しかも、このディップの最悪な点は、この周波数の音が出ないという ことではなく、この周波数で鳴龍のような共鳴が起きてしまうことで、いくら チャンネル・ディバイダーでカットしても、パラメトリック・イコライザーで落とし ても、その悪影響から逃れることはできません。 更に、ごく一部のオーディオ・マニアに人気のあるバック・ロード・ホーンに 至っては、レゲエ系の音楽で一種のエフェクターとして使われる以外に 存在理由が無いのではという気さえします。 50年以上前ならともかく、かの有名なHarry F. Olsenの著書[Acoustical Engineering]が1957年には発刊されているのですから、あえて理論的に 問題のあるエンクロージャーの設計をするのは、はなはだ疑問です。 [Acoustical Engineering]の各章には、それぞれ
Radiator Loudspeakers では、現在では一般的な、振動板で直接空気 を振動させるウーファーの優位性を解説しています。 ホーン型ユニットで50Hzをまともに再生しようとすれば、固い壁や床をミラーと して使っても10mの口径のホーンが必要ですし、ダイアフラムの振幅を フェイズプラグとの適切な間隔(数mm)以内に抑えるには1m近い振動板を 採用しなければならず、大規模なPAで使うことなど不可能ですので、全く 実用的ではありません。 開口部が2m近い大型低音ホーン+バスレフ・キャビネットですら不十分 なのですから、1mにも満たないショートホーン+バスレフ・キャビネットでは 全くの役不足です。 そして、ここが一番重要な点なのですが、ダイレクト・ラジエーターである ウーファーの前にある物はフェイズプラグであろうが、ホーンであろうが、全て 障害物でしかなく、周波数特性の変化、及び、それに伴う位相歪みの増加は 免れません。 オルセンはRCAに勤務し、エポックメイキングなスピーカーシステム LC-1A など、多くの音響機器の設計を担当していました。 世界中のあらゆる音響工学の著書で、この [Acoustical Engineering] を引用していないものを探すのは至難の業でしょう。 |