エンジニア の 独り言

アンプの基礎

アンプの回路には、様々な種類がありますが、半導体を使ったアンプの場合、OPアンプに代表される非反転入力と反転入力の2入力を備えた差動型が主流になっています。
また、出力段にはPチャンネルとNチャンネルの半導体を組み合わせたピュアーコンプリメンタリー型がほとんどです。
真空管の場合は、Pチャンネルの半導体に相当する物がないため、ピュアーコンプリメンタリー構成にすることは不可能です。


非反転アンプ
一般的なアンプに採用されている回路が、この非反転アンプです。
反転させないということをわざわざ表示するのはおかしいと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、素子に増幅率を持たせようとすると位相が反転するのが一般的ですので、増幅段を更に追加するなどして反転させて位相を元に戻すということから、非反転と呼ばれています。
通常のOPアンプの場合、+入力に+の信号を入れますと出力段に増幅された+の信号が出力されますが、OPアンプ自体の増幅率は100dB以上あるのが普通ですので、そのままですと0.1Vの入力で10,000Vの電圧が発生させようとしますが、電源電圧より高くなることはないのでクリップしてしまい、最終的には壊れてしまうことになりますが、−入力に+の信号を入れますと出力段に−の信号を発生させようとしますので、出力の一部を−入力に入れれば、適当な増幅率を維持することができるようになります。
例えば、Bの抵抗を9kΩにし、Cの抵抗を1kΩにした場合、出力段に1Vの信号が発生した段階で、その1/10の電圧0.1Vが−入力に入ることになり、+入力の電圧と同じになるため、出力に1V以上の信号が発生することはなくなります。
この条件では、電圧が10倍になりますので、増幅率は20dBということになります。
この仕組みのことをNF(ネガティヴ・フィードバック)と呼び、ほとんどのアンプでは、この回路によって増幅率を決定しています。

Aの抵抗は入力抵抗と呼ばれ、このアンプの入力インピーダンスを決定する重要な役目を負っています。
OPアンプ自体の入力インピーダンスは入力段にFETを使っている場合は、数MΩと高いのが一般的ですが、入力抵抗を半導体の入力インピーダンスより低くすることにより、SNを改善することが可能になります。
高インピーダンスの抵抗は熱雑音の影響を受けやすくなりますので、むやみに入力インピーダンスを高くするのは問題が起きやすくなります。
特に、入力段がトランジスタの場合は、ベース電流の漏れが動作に影響してきますので、インピーダンスを高くすることは得策ではありません。

以上のことは、OPアンプの動作を単純化して考えた場合で、実際には周波数や流れる電流値によって増幅率が変化したり、位相が回転するなど、複雑な要因も加味されてきますので、実際のアンプでは様々な補正回路が付け加えられているのが一般的です。


反転アンプ
非反転アンプに対して、反転アンプがあります。
反転アンプの場合、+入力をアースに落とし、信号は入力抵抗を通して、直接−入力に入ります。
この−入力に+の信号が入りますと出力には−の信号が発生しようとします。
このアンプの場合、非反転アンプとは少し異なり、出力と−入力を抵抗で接続することによってNFを掛けることになります。
ここでAとBの抵抗値を同じにしますと、入力信号が1Vの場合、逆位相の出力信号が-1Vになった状態で吊り合うことになりその状態を維持しようとしますので、増幅率は0dBで位相だけが反転することになります。
この−入力は+入力の電圧と同じ0Vで吊り合うためには、常にOVである必要があります。
つまり、−入力端は常にアースの電位になり、電気的にはアースされているのと同じことになりますので、イマジナリー・アースと呼ばれています。
そして、このアンプにある程度の増幅率を持たせるためには、Aの抵抗の抵抗値をBの抵抗より高くすればよく、Aを1kΩ、Bを10kΩにした場合、入力端に1V、出力端に-10Vの電圧が発生した状態で−入力が0Vになって吊り合うことになりますので、増幅率は20dBになります。

この回路の場合、Aの抵抗は入力抵抗としても働きますので、できるだけ抵抗値を高くしたいのですが、Bの抵抗値を更に高くしなければ増幅率を高くすることができないこともあり、入力インピーダンスを高くすることが難しくなるため、設計に制約があり、ミキサーのミキシング・アンプ部に採用される以外はあまり一般的ではありませんが、OPアンプ内部の差動回路などの複数の素子を通過してNFが掛かるのとは異なり、OPアンプの外部でNFが掛かるため、動作スピードが速いというメリットがあります。
ただし、回路を流れる信号のスピードの速さが音質に影響するのは、マイクや楽器などからの生音など非常に立ち上がりなどが速い信号を最初に受ける場合に限られるようで、いくつものアンプを通って鈍ってしまった信号を受ける場合は、それほど差は出ない傾向があるようです。

ちなみに、生産完了になっているダイレクトボックスD1の入力段は反転型になっており、リボン型マイクや楽器のピックアップからの信号を電圧・電流とも超高速に増幅してくれるため、過渡的な歪みの発生が見事に抑えられていました。

また、JBLのパワーアンプSE400S,、SE460やプリメインアンプSA-660のパーアンプ部に採用されていた回路も、実はこの反転型でした。
JBLのTサーキットとは、差動アンプ2段にピュアーコンプリメンタリーの出力段を備えた全段直結回路のことでしたが、当時としては画期的な回路設計だったことは確実です。
当時、入力段の差動アンプに使えたのはノイズが低いPチャンネルのトランジスタだけだったため、あえて反転アンプにしたのかもしれません。

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