D 私とマイクは互いに何をしているかわかっていますので問題ありません。 ● 今回のミキシング・コンソールはギャンブルのシリーズEXですが、これは誰の指定です か? D 私が頼みました。何系統ものエフェクトや56チャンネルをひとりでコントロールするのに は、このコンソールが最適だと判断したからです。 ● これはVCAにはなっていませんね。(注1) D そうです。ジム・ギャンブル(設計者)はVCAをまだ信用していないようです。 ● エフェクターはどのようにコントロールしているのですか? D MIDIでコントロ−ルできるものはMRCを使ってコントロールしています。AMSのrmx16 に関しては本体のプログラムを直接呼び出しています。 ● エフェクトは曲によって変えているんですか? D そうです。エフェクトは1曲ごとに違います。 (本番では曲が終わるたびにすばやく数種類のエフェクトを切り替えていました。) ● エフェクター・ラックにウェンデル・ジュニアが入っていますが、何に使っているんですか? D それはスティーリー・ダンのアルバムのようにキックをトリガーにして、サンプリングしてある キックの音と生音を同時に出しています。 ● 頻繁に使うんですか? D いいえ。[THE BOY IN THE BUBBLE]、[DOGS IN A WINE SHOP]、[DIAMONDS ON THE SOLES OF HER SHOES]の3曲だけで、あとはドラム・ソロの時です。つまり音にパンチ が欲しい時だけに使うわけです。 ● 最近アメリカでもコンサート会場の音圧と難聴の関係が話題になっていますが、あなたの 場合は音圧に気を使っていますか? D ええ、私は耳の感度が普通のエンジニアよりも6dBくらい高いようで、110dBSPLを超える ことは、まずありません。ヘヴィー・メタルのコンサートのような音圧には私の耳は耐えられま せん。120dBSPL以上の音圧が必要とされるような仕事は受けていません。おかげで16年間 この仕事を続けていますが聴力の障害とは無縁でいられたと思っています。この前のセント ラル・パークでのコンサートでも、クレアの社長が聴きに来ていて、「110dBSPL以上出ている のではないか?」と言っていたのですが、実際には103〜4dBSPLしか出ていなかったんです。 ● セントラル・パークでのポール・サイモンのコンサートは音質の良さで評判になりましたが、 なにか秘訣のようなものがあるのですか? D セントラル・パークでのコンサートでは400kWのシステムでしたが、新聞の批評に「ヘッド フォンで聴いているようにクリアに聞こえた」と載っていたのは嬉しかったですね。秘訣と言える かどうかはわかりませんが、ヴォーカル、楽器、エフェクト等のそれぞれの周波数レンジを できるだけ分散させ、システム全体の周波数レンジをワイドにさせるようにしています。それに よってマスキング(注2)が防げ、十分な音圧感が得られているのだと思います。 ● ところで、リハーサル前のサウンド・チェックの時、ノイズのことでだいぶカリカリしていたよう でしたが、たいへんでしたね。 D ええ、これまで世界100カ所以上でコンサートをしてきたのですが、今回のようなことは 初めてです。 (次ページのカコミ参照) ● 原因は何だったんですか? D 今回はテレビ局のビデオ録りのため、ステージ側のコネクター・ボックスのところで録音用 に音を分岐したんですが、その際テレビ局がトランスのスプリッターを使ったんです。私たちは メインの電源のところにグランド(1点アース)しているのですが、テレビ局のスプリッターは各 チャンネルのトランス毎にグランドされているんです。そのおかげで入力段階で大きなグランド ループができてしまい、ほとんどのチャンネルにノイズが乗ってしまったんです。2時間もノイズ を聴かされて頭に来ましたよ。(注3) ● アメリカのエンジニアが日本に来て驚くのは電源周りのノイズの多さだという話はよく聞き ますけど、災難でしたね。 D まったく数年間分のトラブルが1度に起こってしまったみたいですよ。 ● しかしリハーサルが始まると、すぐサウンドがまとまってくるのはさすがですね。 D ありがとう。今日は楽しんでいってください。 |
(注1) VCA (Voltage Controled Attenuater/Amplifire) フェーダーやトリム・ヴォリュームでレベルを調節するのではなく、すべて外部から直流の制御 電圧によって、増幅率や減衰率などをコントロールできるようにする回路。パソコンなどで、 すべてのボリュームをコントロールすることも可能。イコライザーやコンプレッサー/リミッター などへの応用もでき、スタジオ用のミキシング・コンソールに採用されている。 |
(注2) マスキング 二つ以上の音の周波数が近接していると、大きな方の音にマスクされ小さな音が聞こえにくく なるという現象 |
(注3) 彼はヘッドフォンで各チャンネルをチェックしていたのですが、途中で「なぜだ!?」とヘッド フォンを叩き付けて壊してしまったのです。 |